会報おすたか113号
事務局だより
御巣鷹山事故の4か月後に、ご主人を亡くされた関西の方の家を遺族で訪ねた時のことを思い出した。35年前のことだ。
彼女は、私たちにこう話した。「事故後何も手につかなかった。でも、2人の小学生の子どもが最近痩せてきた。ご飯を作らないといけない、そう思った。まずは、黒ずんでしまったキッチンのシンクを必死に磨いた。服が涙だでぐちゃぐちゃになったけど、胸にあった塊のような不安が少し小さくなった」と。
グレーの中で過ごす日々。晴れる日はいつかなと、どんよりした空ばかりを眺める。行き止まりの道をさまよっているようだ。仕事は、いつもより縮小していても、やることは結果的に増している。不安を話す人が増えていく。不安というのは、立ち止まると増えていくのかもしれないと35年前の彼女の言葉を思い出した。そこでいつもの生活をする。ご飯を作ったり、自分の仕事を淡々とこなす、小さな達成感を積み上げていくと不安は少しずつ小さくなる気がした。
私たちの生活を大きく変えている新型コロナ。このパンデミック(世界的大流行)で、何とか対策がないものかと焦りながら各国の指導者の言動に注目する。その度に、日本は、支えてくれている現場の医療従事関係者の声をもっと吸い上げて欲しいと思う。医療従事関係者が命を削る日々、そうした犠牲の上に私たちは今生きていられると感じる。事前に備えておけばよかったことがいかに多くあるかを知る度に、想定外の出来事としてはいけないと思う。
「コロナなんか怖くないとSNSで流れると「信じたいことを信じる」気持ちが反応して、本当かと疑う気持ちが薄れる。「自分は大丈夫」と正常性バイヤスが働く。周りにいる人がどう思うかが基準にもなる。他のみんながそうしているのだからそうしなげればという同調圧力とやらもある。さらに、日本人は周りの人に迷惑をかけたくないという意識が強くてSOSを出すのが苦手。社会的に弱い立場にある人ほどコロナ禍のしわ寄せを受ける。孤立化させない支援と情報が求められるが、正確な情報がどれなのかを確かめる手段も多様化している。
何しろマスクをして、消毒して、自分も他の人も感染しないように対策をし、じっと祈るしかない。「誰かのために」と考えて日々行動してくださる方に感謝して、日々知力を絞って過ごしたい。今後も、事故後から一緒に歩んでいただいている皆様と「命と安全を守る活動」を続けながら。 8、12連絡会事務局 20210227
8.12連絡会アピール
8月12日の日航機事故から4ヶ月がすぎた今、私達遺族は手を取合って立ち上がることを決意いたしました。私達が手を取り合うことができるのは、私達の最愛の人達が、あの死の前の無念と苦痛の時間をーつの空間で共有したという事実と、残された者同士が、その悲しみ、怒り、悔しさを共感できるという認識があるからです。その強い絆で支え合いながら、私達は、この事故の示唆するところを世に広く問いかけていきたいと考えています。
この連絡会の目的は、遺族相互で励まし合い、助け合い、一緒に霊を慰めていくことです。また、事故原因の究明を促進させ、今後の公共輸送機関の安全性を厳しく追究していくことです。私達は、あの忌まわしい出来事が繰返されないために、世界の空が安全になることを心より願って行動を起こしました。
私達は、独自の主体性を守り、他のいかなる政治、宗教、組合等の団体に属することはしません。また、利益を追求することや、会として補償交渉の窓ロとなることはしません。
一家の大黒柱を失い暮らしがなりたたない人、乳呑み児を抱えて日々の生活に追われている人、家族全員を失い一人ぼっちになってしまったお年寄りなど、様々な状況の中で、不安な日々を送っている人達がいます。私達は、この事故でそういう社会的に弱い立場におかれてしまった人達とこそ、心を結び、助け合っていきたいと願っています。
また、事故調査委員会の原因究明を厳しく監視し、事故原因が曖昧にされてしまうことがないよう見守りながら、日航とボーイング社の責任を問うていきます。さらに、運輸省、関係当局ならびに日航、ボーイング社を含む公共輸送事業者に対しても、事故再発の防止のため、抜本的な安全対策を要求していきます。そのことによって、あの事故でこの世を去った人達の霊を、本当に慰めることができると信じます。
私達は、「遺族」と呼ばれ、悲しみに打ちひしがれた姿を期待され、下を向きながら生きていくことに終止符を打つために、あえて会の名から「遺族」の文字を削りました。今は「遺族」を憐れんでいる誰もが、第二、第三の「遺族」となる可能性をもっているのです。私達は、“とうろうの斧”と言われようとも、多くの方々と、共に考え、行動することを宣言し、広く皆さんに呼びかけます。
1985年12月20日 群馬教育会館
8.12連絡会